コロナ禍をきっかけにネットショッピングの需要が急増し、EC市場はこれまで以上に急成長を遂げました。これに伴い、市場の競争も激化しています。消費者のニーズに応えるために、EC事業者には品揃えの充実や利便性の向上だけでなく、多様化する支払い手段に対応することが求められています。
なかでも、デジタル時代の新たな支払いスタイルとして注目されているのが「分割払い」です。消費者の購買意欲を刺激し、カート放棄率を低下させるこの仕組みは、事業者にとっても新たな成長のチャンスを提供します。
経済産業省の調査 (※1) によれば、消費者の月々の支出に占めるキャッシュレス決済の割合は約50％に達しており、クレジットカードやコード決済、電子マネーなど多様な決済手段を使い分けていることが示されています。支払い方法の選択肢を増やすことは、EC事業者にとって競争力を高める重要な要素でもあるのです。
本記事では、消費者とECビジネス事業者にとっての分割払いのメリットについてご説明します。
消費者から見た「分割払い」のメリット
分割払いや後払いは、BNPL（Buy Now, Pay Later）の実態について調べた複数の調査(※2)において、3～4人に1人がサービスの利用経験があり、若年層に加え幅広い世代に利用されていることがわかっています。
分割払いが消費者に選ばれる理由は、主に3つあります。
1. 支払い負担の軽減
分割払いは、一度に支払う金額を減らすことで消費者の心理的・経済的負担を軽減できるのが大きな利点です。特に家電や家具、高級ブランド品のような高額商品を購入する際、「一括払いでは負担が大きい」と感じる消費者にとって、分割払いは魅力的な選択肢となります。
心理的な負担の軽減は、消費者が購入を決断する際の重要な要素となり、結果的に購買意欲を高めます。
2. 計画的な支出管理
分割払いは、計画的な支出管理に役立ちます。購入代金を月々の支払いに分けることで、一度に高額を支払う必要がなく、支出を平均化することができます。特定の月に大きな出費が集中して他の支出を圧迫するリスクを回避でき、生活費や貯蓄計画を考慮しながら買い物を楽しむことができるのです。
また、急な家電の買い替えや結婚式への出席といったイベントなどの突発的な支出に柔軟に対応できるため、予算が限られている状況でも必要なものを手に入れやすいというメリットがあります。
3. 決済プロセスの簡便さ
分割払いは、「決済プロセス」の簡便さもメリットです。アプリを通じ分割払いを提供するサービスの多くは、初回にクレジットカード等の情報を登録すれば、以降の決済時には再入力が不要になる仕組みとなっています。
とりわけ、スマートフォンなどモバイル端末での買い物に慣れた若年層は、「決済プロセスのスムーズさ」を求める傾向があり、利便性においても「分割払い」決済サービスが支持されています。
「分割払い」導入がECビジネスにもたらす効果
分割払いは、ECビジネス事業者においても大きなメリットをもたらします。主に3つの効果についてご説明します。
1. カート放棄率の低下
ECサイトにおけるカート放棄の要因のひとつに、「希望する支払い方法が利用できない」ことが挙げられます。UXリサーチ専門会社の調査(※3)によれば、ECサイトにおけるカート放棄率の平均は約69.57％に達しており、うち「支払い方法が少なかった」と回答した人の割合が13％にのぼることが明らかになっています。
カート放棄の課題に対し、分割払いの導入は効果的な解決策となります。分割払いは、特に高額商品の購入時に「一括払いが負担になる」という心理的ハードルを取り除きます。分割払いを取り入れることで、購入完了率の向上が期待できます。また、簡単でスムーズな手続きが可能な分割払いサービスは、顧客体験を向上させる要素にもなります。
実際に、有名アパレルブランドでは「分割払い」サービスを導入し、商品ページには、「〇〇サービスなら、月々〇〇円の3回払い」といった形で、支払額を3分の1に分割して提示することで、カート放棄対策を実施し、成果を上げています。
2. 客単価の向上
分割払いの導入は、客単価の向上に貢献します。一括払いでは購入をためらう高額商品も、分割払いにより現実的な選択肢となり、価格への抵抗感が軽減されます。
さらに、「月々の支払い額」を基準に検討する消費者心理を活用することで、アップセルやクロスセルの機会が増え、ECサイト全体の売り上げアップにつながります。
実例として、分割払いを導入した家具・インテリアメーカーのECサイトでは、購入単価が約1.8倍に向上。また、高単価の趣味関連商品を扱うブランドのECサイトでは、購入単価が2倍に増加するなど、具体的な成果が報告されています。
3. 顧客満足度の向上
分割払いで「欲しかった商品を無理なく手に入れられた」という成功体験は、顧客の満足度を大きく高めます。
例えば、新たに社会人となった若年層にとって、家具や家電といった生活基盤を整えるための初期投資は避けられませんが、可処分所得が少ないケースが多いのも事実です。分割払いは月々の支払い額を抑え、経済的な負担を軽くする頼もしい選択肢となり、顧客の満足度を高めます。
また、「今すぐ必要なものを購入できる」という利便性は、顧客にポジティブな購買体験を提供します。このような体験は、消費者にECサイトへの信頼感や好感を抱かせ、「自分のニーズを理解してくれるサイト」として認識されるきっかけになります。結果、顧客満足度が向上し、リピート購入や口コミによる新規顧客の獲得につながります。
まとめ
ECビジネスにおいて、分割払いの導入は単なる支払い手段の拡充にとどまらず、消費者に「より自由な選択肢」を提供し、購入のハードルを下げる効果が期待できます。カート放棄率の低下や客単価の向上といった具体的なビジネスメリットも確認されており、競争が激化するEC市場において顧客体験を高め、売り上げの拡大を目指す上で重要な取り組みとなっています。
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出典・参考文献
※1 経済産業省 商務・サービスグループ キャッシュレス推進室、「消費者実態調査の分析結果」（参照日：2024/11/28)
※2 マネーインサイトラボ、「後払い決済サービスの利用実態調査」（参照日：2024/12/1) 株式会社メルペイ、「後払い決済サービスに関する実態調査」（参照日：2024/12/1)
※3 米Baymard Institute社、「49 Cart Abandonment Rate Statistics 2024」（参照日：2024/11/28)